29800円の海外旅行 その14

リニアモーターカーの上海側始発駅、地下鉄2号線龍陽路駅周辺の人影はまばら。ホーム上にも乗客はほとんどいない。ギネスブックに「世界最速の商業列車」として登録されているにしては、あまりにも寂しい。最高時速430㎞/浦東空港間約30㎞を7分20秒、片道50元で結んでいるが、費用対効果は大いに疑問。

客席がまったく埋まらないまま、リニアーカーは、す・す・すーと動き出した。なかなかスムーズな動き。ここまで不安なし。ぐんぐんスピードが上がる。時速200キロに到達、う・う・うー時速300キロ。う・う・うーだんだん怖くなってきた。カーブだ。空中浮揚のリニアカー、磁石が切れてぶっ飛んで上海の街に飛び出さないか? と不安がよぎる。

ウォー・ウォー、このまま時速400キロはさすがに不安、と思っていたら、ミスターチンがひと言「最近いろいろ事情があって、時速300キロ以上は出ないよ」と、しらーとひと言。安心はしたが「最近のいろいろな事情」が、新幹線の事故を指していることは明らか、別の意味で怖くなってきた。

と、それ以上考え込むまでもなく、もう浦東空港に到着、約8分の乗車時間。ンー、やっぱり無駄だ。一目散に空港に着いてしまうリニアーになんの意味もなく、旅情の余韻に浸る暇もない。ミスターチンに聞けば「上海人にも人気ないよ」との弁。なるほど。

橋下大阪府知事は、「大阪中心部と関空をリニアで結ぶ」が口癖だが、大阪の都市格に比べ何倍もの大きさを誇る上海でこれだ。上海のこのスカスカを見たら、「リニアの役立たず」に何の疑問もない。遠い遠いと言われている関空だが、実はそれほど遠くもない。伊丹がやたらに近く、それと比べると遠いだけ。ダウンタウンからもっと時間のかかる空港は世界にたくさんある。そんなことを考えながらリニアーの駅から浦東空港のターミナルビルに向かい歩いたが、本当に悲惨なほど人影はまばら。空港側からリニアー駅に向かって歩く人は見かけない。旅の終わり、上海にこんなに寂しい「最新文明」があるとは皮肉なことだ。

ミスターチンともそろそろお別れだ。