29800円の海外旅行 その12

上海一の繁華街、南京路の20年前の写真がある。トロリーバスが走り南京路の道幅が狭くなっていて道路表面も仮設のようになっている。おそらく地下鉄2号線ができる前の写真のようだが、歩道に溢れる人・人・人の波が半端ではない。ショーウィンドーに足を止め寄りそう人波や、店舗群の看板を見上げている人たちの様子が確認でき、楽しそうだ。わずか20年前、モノが溢れる以前の上海は、人が溢れ逆に活気に満ちている。

欲望を満たす技術や方法がアナログだった時代は、欲望に到達することそのものが豊かさの象徴だった。ところが、原発のような制御不可能な「技術?」で、際限のない欲望を手に入れようとしたときから、技術は魔術になった。あたり前のことだが、正常な人間は際限のない欲望に疑問を抱いている。

日本国内で見聞きする報道では、中国の人たちの欲望は際限が無く「しまいには世界中を食い尽くす不安がある」というものが多い。しかし、上海で見た庶民の様子は決してそのようなものではなく、「欲望」に対して少なからず疲弊し疲れているように見えた。このような様子は論理で説明しにくいが「気分」や「表情」に表れやすくウソはつけないものだ。中国の「国」としての焦りは、どうもこのような所に帰属する世界共通の「消費不安」が根本原因ではなかろうか。だとしたら、20世紀の消費文明に代わる、新しい未来規範を発見し、発明しなければ、いまこの時代の社会はどんどん息苦しくなる。

消費に代わる幸せって? そんな意地悪な質問をミスター・チンに問いかけたくなった。たった四日間、29800円の旅もそろそろ終わりに近い。タフなミスター・チンも少々お疲れのようだ。