29800円の海外旅行 その10

上海ではたった1泊。貴重な自由時間は市域を縦横に走る上海地下鉄を利用し(今週、追突事故を起こした、地下鉄10号線にも乗りました・・)今回の「無錫・蘇州とその近郊・上海を巡る旅行中」むくむくと芽生えてきた「不思議・疑問」を、可能な範囲で探ることにした。といっても、ボクの専門は観光、そう難しいことではない。

上海市内の場末に位置する投宿ホテルから、地下鉄を利用し、上海ではもっとも早く開け、いまもオシャレな地域として名高い「南京路」(地下鉄2号線沿いの上海一のショッピングストリート)に立地する二つの有名デパートで「定点観測」することにした。ひとつは、「人民広場駅(地下鉄1・2・10号それぞれに人民広場駅がある)」スグの百貨店「新世界城」。いまひとつは、「静安寺駅」スグの久光百貨店だ。

「新世界城」では、各フロアーをまんべんなく見て回った。この百貨店に入ってまず目につくのは、巨大な吹き抜け空間とカーブ状になったエスカレーターだ。各売り場フロアーが、それぞれ長大なエスカレーターで結ばれ、メインエントランスのカーブ状のエスカレーター(前出の)と共に、とにかく目立つ。それらはスキップフロアになっていて、広大な吹き抜け空間のこっちとあっちに、2か所配置されている。

とにかくよく目立つエスカレーターだが、アフターファイブになっても客足は鈍い。各フロアーの売り場を覗いてみても商品陳列はお粗末(商品はそろっているがオシャレではない)。店員にもやる気はない。そもそもお客さんがいない。ボクが育った大阪の場末に布施という街がある。小学校から中学にかけ、この布施にあった「第一デパート」に近所の悪ガキどもと頻繁に遊んだが、そんな風情。しかし、ここは今をときめく中国・上海、その一番の繁華街にある有名デパートで、40年以上前の布施・第一デパートとは違う。

翌日・最終日4日目は、昼時の久光百貨店に向かった。時間もなかったので、ガイドブックにあった「日本人駐在員の食糧御用達の名店」を信じ、地下食料品売り場に絞って観測した。たしかに、ありとあらゆる日本食材・食料品が陳列されている。おまけに、名店コーナーでは、たこ焼き・お好み焼きに、あろうことかモンシュシュ堂島ロール」まで出店している。ところがところが・・こちらのデパートも客足は数えるほど。おまけに、お客さんなどそっちのけで、百貨店関係者やバイヤーらが多数、難しい顔をして陳列棚の前を占拠、写真を撮り打ち合わせに大童の体。つまり、まったく売れないのでリ・メイクの打ち合わせ。食料品売り場の昼の時間に、なんと大胆なお仕事ぶり。東京でいうなら銀座の一等地、大阪に例えるとキタやミナミのデパートでもっとも混雑するような時間帯に客足が無い。「少ない」ではなく、「無い」と表現した方が適切な数だった。これらは何を意味しているのか?

都市部とその郊外では超高層マンションが林立していた。この様子は移動するバス中からいやというほど拝見した。さらに、都市間に立地する郊外ともいえない「郊外」では(高速道路横いたるところで)、超高層マンションの「工事中」を見た。さらに、完成後入居を待ち望んでいるらしい「販売中!」の超高層マンションも大量に見た。

T型フォード・大量生産の「フォーディズム」や、無駄を極限までそぎ落とした品質のトヨタが編み出した「カンバン方式」は、20世紀近代資本主義システムの花を極めた。中国はそのさらなる前進系のグローバリズムで、これからも栄華を極める、はず、だったのでは? しかし、この旅程中見続けたものは、「まだら状」の栄華(一部の繁栄)とグローバリズムのどん詰まり、そのライブな「幕引きの光景」だった、多分。

魯迅公園の昼下がり、お金をかけずにのんびりと歌い踊りする庶民。そんな様子をあっちこっちの公園でも見かけた。それらの人は「日本からの観光客」を見かけると、ほぼ例外なく、いま歌っている歌を中断し「北国の春」を歌ってくれ、サービスしてくれた。お年頃は、皆ボクと同じくらい。超高層マンションの廃墟や高級デパートの空虚より、壮年男女の恋唄に魅力を感じた。