29800円の海外旅行 その6

このツアー期間中、ミスター・チンは本当によく働いた。特にバス移動中の注意事項の解説や説明は際立つ分かりやすさがあった。が、疑ってかかったものもあった。その中でも「ウソやろ〜」と、まず疑ったのが、「道路を横切る時の注意点」だった。ミスター・チンは言った「道を横断するときは、ワタシの後ろから離れないこと。ぴったりくっついて横切らないとダメよ!」

なにを大人に大げさな、と思っていたが、はじめての道路横断でこの注意が「紛れもない事実」であることが、その恐怖体験と共に実体験できた。恐ろしすぎて道を渡ることができない。

信号機付きの交差点(勿論「青」)であろうが、車列が途切れ安全確認した道路横断であろうが、歩道だから何も問題ないはず・・そんなことのすべては、この国ではまったく「安全」の証にはならない。車も歩行者も「対等の関係」でスピードはお互い緩めない。なにがなんでも堂々と突っ切ってくる。

空前絶後、超ド級に恐ろしいのが「電気バイク」だ。バッテリーとモーターの直付け、まったく音もなく、縦横無尽・前後左右・自由気まま・お好きにどうぞ状態で突っ込んでくる。この電気仕掛けのバイクは、道路交通法の対象外(正確には自転車扱いらしい)で、歩道、道路、裏道、公園など何がどうあっても、音もなく突っ走ってくる。数年前までは、自転車に毛の生えた程度のものだったらしいが、いまや工作テクニックを上達させた「バイクメーカー」が、バッテリー容量を高め、駆動モーターの仕様を向上させたからモーたまらない。これがなんで「自転車やね!」と、一度だけ大阪弁で怒鳴ってはみたが、ここは中国わが身が危ない。そうこうしてる間にも、次から次からひかれそうになる。

ガソリンエンジンのバイクは目算で100台の内、1台か2台程度。ピストンを内燃機関で効率よく上下させ、その力を今度はまったく動力特性の違う「回転する駆動輪」にいかにスムーズに伝えるか。この難しい「燃焼性能技術」と「つなぐ技術力」でニッポンの自動車メーカー(2輪メーカーを含む)は日本の経済力をも高め、世界に君臨してきた。しかし目の前の電気自動車(電気バイク)は、いとも簡単に走り、これだけの市場に育ってる。ホンダもヤマハも今昔の世界だ。そしてトヨタも・・?

難しさを極める技術力と「簡単なことは簡単にやっつけるケセラセラ」・・日本では、バッテリーの高度化が電気自動車の市場性を牛耳る「肝」との話になっているが、2輪と4輪の違いはあるにせよ、簡単を極める「ケセラセラ」が市場を既に席巻している。日本で見聞きする「4輪電気自動車の技術開発の困難さ」、それってホント? 供給量が「ある一定以上」を超えると、少なくとも「都市部での乗りまわし」には、今の技術で問題がない。怖い話だ。

おっとと、あっ危ない! ミスター・チンから離れるとひかれそうになる。去年、尖閣でニッポンのコーストガードが中国漁船に体当たりされたが、この道路横断の危険性から考えて、「コラッ」と言うべき時は「コラッ!」と、どぎつく発っしないと、コラあかん。と、妙に納得。「コラッ!」と上品な大阪弁を発っしつつ、目で威嚇する。中国での道路横断はこのスタイルに限る。安全が一番だ。

6人乗り、親子の曲芸乗りのようなバイクが突っ込んでくる。見とれていてはひかれてしまう。思わず身をひるがえした。これを見てミスター・チンはまた言い放った。「上海雑技団の最初の練習はコレよ」・・彼のジョークが本当の話のように思え大笑いした。