美人姉妹と民宿

あてがあったわけではない。学校や地図で見聞きするリアス式海岸というものをこの目で見たかった。ただそれだけで石巻線から気仙沼線に飛び乗った。のろのろ走る列車の中で夕暮れ時がきた。大島が目の前に綺麗だ。腹も減った。目的地の気仙沼はまだ先だっが、勘だけで列車を飛び降りた。

大島を目の前にした海岸沿いの町を歩いた。もう夕暮れ時。宿を探さなくては・・

同い年くらいの美人姉妹?がこっちを見てる。目があったので聞いてみた「この辺で安くとめてくださる民宿ありませんか?」と。「どこから?」と聞かれ、「大阪から」と答えた。すると、大阪弁よりもっと親しみ深い東北の言葉で「へぇ〜! 大阪!私たちも行ってみたい」と破顔一笑。「私たちの家も民宿やってて、本当は泊まってってほしいけど今日はもうご飯作れないから残念だけど、ダメ・・」と、受け答えする尻から手をひかれ、近所の民宿へと連れてってくれた。

宿屋が一番嫌がる夕刻遅い「飛び込み客」。しかも、17才の若造がたった一人では金にもならない。が、その民宿のおばちゃんは、いやな顔など一切なく受け入れ、たった一人の泊まり客を歓待してくれた。風呂のあとに夕飯ができていた。食べきれないほどの魚が食卓にあった。心底うまかった。

あくる朝、おばちゃんに挨拶し民宿を出た。気仙沼からまだ先、リアス式海岸が見たかったから。とぼとぼ一人、駅に向かった。

あれっ?! あっ、あの美人姉妹が駅にいる!! 列車が来た。乗るより他に方法がなかった。ただただ窓から手を振った。たったそれだけのことだった。あれから40年、この町を大地震と大津波が襲った。