観光庁の仕事

東北の大震災と大津波。さらに福島原発の事故があって以来「観光の現場」は大混乱が続いている。大阪のこの小さな宿にも東京から避難しようと考えた人の電話が多くあった。ヨーロッパの大国、ある国の領事館から空室状況を確認する電話も。

報道では、観光庁が支援に動き、東北地方の被災者を中心に「宿を安く確保し紹介するサポート」を行っていると聞く。長期に及ぶと想像される非難所暮らしに、このようなサポートの手を差し伸べることは観光庁の業務適性に叶っており、迅速な手立ては称賛に値する。

一方で不安なこともある。何ヶ月もの間、観光庁の業務が復興支援だけに偏れば「ニッポンの観光」が世界から取り残される。観光報道を専業としている知人から聞いたところによれば、すでに西日本でも様々な海外誘客向けイベントやキャンペーン。プロモーションが軒並み自粛という名で中止されたそうだ。その大イベント・キャンペーン・プロモーションの多くは、観光庁関連のモノだ。

このままでは、「ニッポンへの旅を楽しみにしていたが、行き先を他の国に替えた」ということが日常茶飯事になり、その後はニッポンがスルーされ、それが定常化する。観光庁の知恵がなければ、阪神淡路大震災で神戸が経験した経済的困窮が日本全土に広がってしまう。

復興を軌道にのせるには当初から、物理的な復興と経済活動の基盤を損なわせないための中長期策の両方がいる。いま、西日本エリアの観光ビジネスまでをも自粛してしまっては、海外旅客にニッポンが忘れられてしまう。観光庁が進めていた、「近い将来、外国人観光客・年間3千万人」は、元々、羽田空港の国際化や新東京タワー東京スカイツリー)などを目玉とした、東京一極集中型の観光施策(2010,2,25朝日新聞・私の視点における拙論)だったが、その極端な一極化策を根本的に、いま改めないとニッポン観光は本当にダメになってしまう。

西日本中心のセールスで海外旅客をつなぎとめれば、空路・鉄路・海路いずれを使っても、経済復興期において東北エリアにお客様を送りこむ観光ルートが、いち早く設定できる。観光庁は早急に(物理的復興に汗を流すとともに)経済活動の基盤を整えるための観光政策の具体を進めなくてはならない。

「東京が駄目だからぜ〜んぶ中止」・・これでは東北の経済復興は支えられない。ニッポンを代表する観光地、日光東照宮の参拝客はこの時期、例年8千人/日。いま現在は何と! この僅か5%程度。 確かにこの現実は残念だ。しかし、そうだからといって(東京エリアの観光地が全部ダメだからといって)観光庁がニッポン全体の観光セールスまでをも諦めてしまっては、どないもならん。あ〜、このスカタンを早く改めないと。