チャオプラヤで見たテレビ

幾重にも連なった土砂運搬の船は、のっそり、のっそり「俺が主役だ!」と川のまんまん中を上へ上へと鈍重に進む。力持ちのタグボートに引かれ、ロープで結ばれた艀が3隻、4隻と繋がるさまは壮観だ。総延長200mはある。その砂利船は遠巻きにされている。遠巻きにするのは膨大な数と種類の観光船だ。あちこちで行ったり来たり。砂利船の横をすり抜ける。

チャオプラヤ川はタイ・バンコクきっての観光資源。この川沿いに有名ホテルが林立し、ワット・プラケオ(エメラルド寺院)やワット・ポー(ねはん寺)、そして王宮などの世界的観光資源が密集している。そこを、総延長200mを超える砂利船が堂々と主役を張り、悠々と上流に向かう。なんだか痛快だ。バンコク市内はモーレツな建設ラッシュが延々と続いている。上流には、この艀たちで運ばれた土砂を市内各所の建設現場に仕分けるダンプカー基地でもあるのだろう。

その悠々とした砂利船を横切って、ちょこまかちょこまか観光船が走っている。様々なデザインを凝らした有名ホテルの送迎船だ。バンコク名物のBTS(高架鉄道)拠点駅に近い船着き場まで泊まり客を運ぶ。信じられない車の量・・渋滞を横目にホテル専用桟橋からの送迎船とBTSの市内移動は安くて楽ちん。それに、チャオプラヤに面したホテルはバンコク市内の殺人的排ガス公害から、幾分でも逃れることができる(気がする)。

シェラトンヒルトン、シャングリラ、マンダリンにペニンシュラ。有名ホテルだけを数えてもキリがない。ホテルの数だけ送迎船が走っている。

カップルが肩を寄せ合う細長の“ロケットボート”もブっ飛ばしている。こっちは、スケベそうな白人とにわかカップルの現地の女性が多いようだ。ロケットボートの推進力は、むき出しのプロペラ・エンジンだ。その運転は働き者の手、まっ黒だ。

路線バスのような観光水上バスも次々とやってくる。こっちは、中国人とおぼしき団体がものすごい。ものすごいといえば、この水上バスの黒々とした排ガスはものすごい。25バーツ。どこにでも渋滞知らず。次から次へと水上バスがやってくる。便利!

朝夕、働き者のタイ人の通勤は肩身狭そうなオンボロの渡し船。都心の仕事場に近いこちら側、ベッドタウンに近いあちら側。大阪・天保山渡し船、あの風情だ。

さらに、さらに、さらに・・“ここだけの太陽”が沈むと、闇夜。どす黒いチャオプラヤがどす黒さを増す。しかし、ショーボートのネオンが反射し、チャオプラヤの魅力は逆に増す。夜の美しさはこの上もない。怪しげに美しい。魅力的だ。そのショ−ボートはデッカイ。その数もイッパイ。わが町・大阪が「水都大阪」と言ってるが、なにもかもスケールが違う。

厚化粧のチャオプラヤだが、「主役はどうみてもやっぱり砂利船」。なんだか愉快だ。

チャオプラヤに面する、そんなホテルの一室でテレビをつけた。衛星放送、世界中のメディアが速報を流している。ニッポンがゆれた、壊れた、爆発した、と。

NHKの衛星報道だけは、異彩を放っていた。