観光立国の恥部

時と場合、場所と雰囲気が備わっていればけっして嫌いではない。だが、旅そのものを楽しんでいる真っ最中に突然飛び込んできたら強い嫌悪感だけが残る。ホテル備え付けのスケベビデオのことだ。

今年「この地域」では、大きな観光イベントが開催されていた。その中心地区にある観光ホテルの一室がその日の宿。友人との夕食の約束時間を確認しようとテレビをつけた。驚いた! テレビのビデオシステムが故障しているのか? スイッチを入れた途端、男女がからむ強烈な映像が飛び込んできた。延々と続く。嫌いではないが「その時」ではない。それどころか、ある種の暴力のようにさえ感じた。

「その筋のホテル」ではなくても、ニッポンのホテルではこの種のビデオが備え付けられている場合が多い。さらに、テレビの周辺には、よ〜く目立つようにスケベビデオのセールスパンフレットが置かれている(ことが多い)。過去、ビジネスマンのニッポン人だけを顧客対象とした多くのホテルはいま、外国人旅客を含む観光利用に大きくシフトした。したがって、この種の倫理観にきわめて厳しい国々の人や、家族連れのお客様も多くなった。つまり、スケベビデオを必要としない顧客が多くなったということだ。スケベに寛容、融通無碍な日本のシステムに「のけぞる」。

売り上げ確保の一環といってしまえばそれまでだが、「観光」で勝負しようとするのであればスケベビデオよりも「観光案内のビデオ」がいい。スケベビデオを取り外した全国各地の「観光で頑張るホテル」がネットワークされ、その地域・地域の案内が簡単に選択、案内される。そんな緩やかなホテルネットワークがあっても良いのではないか。

デジタルネットワーク化されるテレビシステムはアナログとは違い、格段に高次元の情報ツールとなる。不明瞭な観光政策の積み上げよりも、スケベビデオを排した「観光ホテルネットワーク」によるニッポン観光の情報オンライン化が望まれている。ネットの時代になった今でも、もっと選択確度の高い方法で観光情報に触れたいとする旅人は多い。そんな旅人がニッポンのそこ、ここを旅している。

のけぞる旅人が今日もまた。そんなことを考えただけでこっちが、のけぞる。融通無碍は大好きではあるが、スケベビデオを垂れ流す「観光立国ニッポン」は、あまりに恥ずかしいのではないか。