大阪とメルボルン

LCCのジェットスターが就航する前からオーストラリアからの客人は多い。その多さは、観光という括りを超え「地域間交流」という視点で語るべき幅の広さをもつ。たとえば、ネーティブの英語先生として日本に着任中。その休暇で関西を旅しているという客人についてだけでも、北は秋田や長野。西は鳥取や島根。南は高知や鹿児島。等々、枚挙にいとまがない。ましてや、日豪の留学プログラムを通じた「その後の親交」で、この小さな宿で「再会」といったほほ笑ましいエピソードは数限りない。

今年、2月25日の朝日新聞・私の視点で「ニッポンの観光“瀬戸内海の多島美を生かせ”」と題し拙論を書いた。時の民主党トップが施政方針で述べた「訪日外国人旅客の倍々ゲーム(2008年実績の約4倍、年間3千万人もの海外旅行者を速やかに確保・目論むとの弁)」は、政策的根拠が薄く暴論。無為な観光客の増加は逆に作用し「日本の地方都市にとっては危険」で、首都圏外でもっと具体的な政策を、というものだった。

このことについては、「ものがたり観光行動学会」の用務で霞ヶ関に出向いた際、時の観光政策担当副大臣・辻本清美さんと、同じく政務官藤本祐司さん(参議院議員・静岡選出)と意見交換した際にも、「根拠希薄」の実質的な反証はいただけなかったことを記憶している。この「倍々ゲーム」の政府の唯一のよりどころが「中国」であったことは言うまでもない。

テレビでは昔「2倍、3倍などあたり前」という商品コマーシャルがよくあった。しかし、これなどもその根拠が希薄であれば倫理審査にひっかかり、テレビ放映してはならない時代となっている。いったい、国家の政策とはどのような倫理観に基づいて策定されるのか、一度でいいから覗いてみたい。・・と、そんな難しい話はさておいて・・

メルボルンからまた、ほほ笑ましい若いカップルがやってきた。学校のジャンプ制度を活用し長期の休みで日本一周中。今日は留学プログラム以来の日本の友人と再会、海遊館やUSJで1日遊ぶらしい。考えてみれば、高度成長期以降あっちこっちの自治体で「姉妹都市提携」なるものが結ばれた。大阪でもメルボルンの他、サンフランシスコ、ハンブルグ、シカゴ、サンパウロ、上海、ミラノ、サンクト・ペテルブルグ。8都市もある。なんと、この小さな宿にも、サンクト・ぺテルブルグ以外からはお客様がやってきている。それなりの運営コストがかかる姉妹都市提携が首長と議員の表敬? いや、そんなのんきな時代ではない。

政策的根拠が希薄な日本の観光政策。それならいっそ「姉妹都市提携」の仕組みを上位自治体で統合・格上げし、「観光戦略的姉妹都市提携」なる道筋はあり得ないものか? 絵空事のような「倍々ゲーム」や一国だけに頼り切る危険な政策ではなく、市民交流からの底堅い観光政策である。ただし、いまの政治が大好きな「すぐ効く、よく効く、魔法の薬」ではない。市井の民と、地に足がついた政策運営が合体した「漢方薬」のような効き目だ。

・・いまのせっかちな政治では、やっぱりこっちの方が「のんき」、かなぁ〜