オリーブに恩返し

小豆島に井上誠耕園というオリーブ農家がある。社長の井上さんにはオリーブの島・小豆島をさらに進化させたいという夢がある。いや、夢などではなく企業家としての責任ある実証行為といった方がよいのかもしれない。

井上さんに出会ったのは、もう10年ほども前。大阪・中之島で「もうひとつの旅クラブ」というNPOが主催した、まちづくりイベントで。出会ったというより、こちらが一方的にお願いして来てもらった。大きな鍋と釜戸、焚き木。お米に具材。それに新鮮なオリーブオイルとオリーブの実。それら一式を抱え軽自動車に乗って農家の働き手2人、都合3人。2日間にわたって大汗をかきつつ、それはそれは美味しいパエリアを大阪ど真ん中、中之島で炊き出してもらった。痛快だったし旨かった。

それから10年。井上さんは「小豆島で若者の雇用を!!」を合言葉に、農家を企業化し着々とその夢を進化させていった。いまでは多くの若者が島外からも「汗をかいて働きたい」とやってくる。

大都市が雇用を担い、地方の若者を一方的に吸い上げていった時代・・高度成長期。いまニッポンでは、そのような時代が確実に終焉し、小さくてもキラリとひかる企業家に若者を託すべき時代となった。

井上誠耕園を度々訪ね、井上社長から聞く話は「生きている、生かされている」ということが実感できる話ばかりだ。ボクはこの10年間の井上さんの血のにじむような努力を拝見し、いつも自責の念にかられる。10年間の人間の成長には、これほどの差がつくものか、と。

いつの時代も、若者が抱く夢と大人の諦念は抗う。しかしこの10年、都市は若者に「希望」を提示できていないのは事実。自分自身に進歩がないことは棚に上げ、井上さんの努力と中央集権を見比べつつ、地方の時代への停滞に歯ぎしりがする。