天神橋筋商店街のクジラ

天神橋筋商店街大阪駅・梅田エリアの一駅東にある。「お手軽観光スポット」としての人気が高く、帝国ホテルを筆頭に数々の宿泊施設もある。ゆえにちかごろは、諸外国からの客人も「そぞろ歩き」を楽しんでいる。

その店は天神橋筋商店街の三丁目にあった。歴史ある店ではなかったが角店でとてもよく目立った。それに・・、ただひたすら目立つ看板があった。どぎついブルーの大きな看板一杯に潮を吹くクジラがドドドドーン! と描かれていたのだ。格安航空会社(LCC)のジェットスターが就航し、2年ほど前はオーストラリアやニュージランドからの客人のピークを迎えていた。それに、シーシェパードとかいう、誠に勝手な反捕鯨団体の活動も頻繁に伝えられたころだった。

小さな宿に若い豪州人女性が泊まった。ジェットスター関空入りし、そのままここまでやってきた。LCCの機内サービスはすべてが有料、「飲まず食わず」でやってきたので「お腹ペコペコ」。で、いつものように天神橋筋商店街での食事を勧めた。日本への留学経験もあるという彼女は、「ぶらぶら歩きながら気に入った店に入る」といって出かけた。なかなか帰って来なかった。

2時間ほどがたち、高揚した顔で彼女が帰ってきた。「クジラの店に入った!!」と。興味本位で入店し、さすがに他のメニューで腹を満たしていたのだが、横にいた日本人サラリーマン風のおっさん二人から、「クジラ食べる?」と問われ、トライ!!「食べてみた」のだとか。

美味しくもなかったがまずくもなかったと。ただし顔が弾み、うれしがっているのがハッキリ見える。自国の食習慣にないものを食べることの楽しみは、異国を訪ね、異文化に触れることの中でも最高のデラックス。これほどの知的体験、異文化体験はない。彼女はそう言っていた。

先ごろ、シーシェパードの代表者と船を沈没させた船長が仲間割れをしたとの報道に触れ、クジラを食べた豪州人女性のことを思い出した。この反捕鯨団体には欧米人の映画俳優や歌手、文化人も寄付を寄せ、支援していたというが、異界の芸や文化をうたって人気を博し禄をはむタレントが、異国の食文化だけは何が何でも排斥する。ケッタイな話だ。

一度は食べたいニッポンの食文化体験ツアー!! 今夏、その「クジラの店」は閉店したが、世界は狭くなり安くもなった。普通の人の好奇心が勝り、案外そんなツアーも成り立つのではないか、無責任な企画がよぎった。